精神医学界のタブー!!脳の一部を切除するロボトミー手術とは
画像引用:Wikipedia
1950年代、精神疾患に対しての有効な治療法がまだほとんど無かった時代に、その症状を改善できるとして世界規模で大流行した治療法がありました。
それは当時、興奮状態、幻想、暴力、自傷行為など手のつけられないような症状でも抑えることができる、「奇跡の手術」としてもてはやされていました。
それが、患者の脳の一部を切除する「ロボトミー手術」です。
しかし、それは今ではちょっと考えられないほど危険なものでした。
左右のまぶたの裏からアイスピックのような器具を差し込み、頭蓋骨の最も薄い部分を突き破り、手探りで脳の一部である前頭葉をかき切るという乱暴なものだったのです。
しかも、このロボトミー手術にかける時間はわずか10分程度だったといいます。
この治療法を広く普及させるため、安全性や有効性よりも効率性を重視したためです……。
目次
ロボトミーの普及
この新しい治療法は、全米各地の病院で広く支持されました。
当時は第二次世界大戦が終結したばかりで、戦争で精神を病んだ兵士たちが50万人を超えていたといいます。
各地の病院は、そうした精神疾患の患者で溢れかえっていたのです。
そんな中、特別な設備や資格を必要とせずに短時間で実施でき、かつ対処の難しい患者を退院させることができるロボトミーは支持を得たのです。
1949年には、ロボトミー誕生のきっかけを作ったアントニオ・エガス・モニスが、その功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞します。
これを機に、ロボトミーも爆発的に広がりました。
その普及の中心にいたのは、アメリカの神経科医ウォルター・フリーマンです(上記写真左)。
フリーマンは、ロボトミー普及のため全米の病院を巡り、多い日には1日25人のロボトミー手術を行ったこともあるといいます。
今ではタブーとなっていてあまり語られることもありませんが、ロボトミーは日本の精神病院でも積極的に取り入れられていたといいます。
ロボトミー手術の後遺症
爆発的に普及したロボトミーも、時が経つにつれ徐々にその後遺症が明るみになっていきます。
多くの患者は、症状の軽減と引き換えに感情や意欲といった人間性をも失ってしまいました。
50%以上の患者が、いわゆる「廃人」と化したとも言われています。
前頭葉は大脳皮質の前の部分にあり、人間の人格が宿るところだと考えられています。高度な思考や感情、運動、注意力などを主につかさどる部位です。
そこを切除してしまえば、当然そういうことになるでしょう。
まして手探りでの大雑把な手術ですから、さらに重篤な症状が残る人や死亡事故も珍しくなかったようです。
ロボトミーの衰退と暴走
1954年には、ロボトミー以上の効果が期待できる抗精神病薬がアメリカで認可されました。
これにより、脳の一部を切り取るというリスクの高いロボトミー手術はほとんど行われなくなりました。
その危険性から、もともとロボトミーに疑問を持っていた多くの医師も一気に薬物治療に流れたのです。
ただし、その後も一部の精神病院ではロボトミー手術が密かに実施され続けました。
それは、反社会的な人物を矯正する目的で対象者は犯罪者、同性愛者にまでおよんだといいます。
もはや治療という範囲を超え、都合よく人間をコントロールする道具として利用されていたと言っても過言ではないのかもしれません。
この辺りのことは、ケン・キージーの小説「カッコーの巣の上で」や、それを原作とした同名の映画で描かれ、衝撃とともに世界中に知れわたることとなります。
一時は「奇跡の手術」と呼ばれたロボトミーも、最後には「悪魔の手術」と呼ばれるようになり、精神医学の世界ではタブーとされるようになりました。
最後に
驚くことに今からたった数十年前、人間の脳の一部をアイスピックのようなものでごそっと切除してしまうという手術が世界中で大流行していたのです。。。
新しい技術による効率性ばかりを追い求めると、案外私たちは知らぬ間に人間性を軽視して突っ走ってしまうことがあるのかもしれません。
もしかしたらいま私たちの間で流行し、当然のように使っているものの中にも、私たち人間をこっそり壊してしまうような危険なものが存在しているのかもしれません……。
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