ミケランジェロと運慶の仕事観
ダビデ像などで有名なイタリアの彫刻家ミケランジェロは次のような言葉を残しています。
「全て大理石の塊の中にはあらかじめ像が内包されている。彫刻家の仕事はそれを発見する事」
「大理石の中には天使が見える、そして彼を自由にさせてあげるまで彫るのだ」
前者は、物事の本質や核となる部分を見出すということ。
後者は、ただそれを覆い隠している余分な部分を削ぎ落として行くということ。
この作業によって、何世紀にも渡って人々を魅了し続ける芸術作品が誕生したわけです。
運慶も同じことを言っていた?
同じようなことは、鎌倉時代初期に日本で活動した仏師、運慶に関する話の中にもあります。
夏目漱石の短編集「夢十夜」には、運慶が何の設計図も無く見事な仏像を掘り出すことについて書かれた部分があります。
それによると、運慶の仕事を見て驚いた人たちは次のような会話をします。
「よくああ無造作にノミを使って、思うような眉や鼻ができるものだな」
「あれは眉や鼻をノミで作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、ノミと槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」
奇しくも、西洋と東洋の天才彫刻家が、同じような感性を持って仕事をしていたということになります。
本質を浮かび上がらせるアプローチ
もっとも、これらの話がどこまで真実かは定かではありません。 しかし、これは私たちに多くの教訓を与えてくれます。
クリエイティブな仕事をする人はもちろん、子育てや人間形成においても参考になる部分が少なくありません。
この話を人間形成に当てはめてみると、次のようなことが言えるでしょう。
何か特定のゴールや目標を設定して、そこに到達するために不足している部分を自分に付け加えていくのが一般的なやり方です。
それに対して、ミケランジェロや運慶のやり方は、その人が本来持っている資質を見出し、それを最大限にいかしていくことで最も輝く姿を浮かび上がらせようとするもの。
立ち位置がだいぶ異なります。
どちらが正解という話ではなく、通常私たちは前者のやり方に偏っていることが多く、だからこそミケランジェロや運慶のやり方からは多くの発見があるということです。
コーチングの現場でも、このミケランジェロや運慶のアプローチが取られることが多いのです。
なぜなら、多くの人がこのアプローチをとっていないため、インパクトが大きいからです。
その人の中に眠る、何か輝く部分を見出し、そこに光を当てていく。 そんなプロセスが行われます。
発見し削り出す力
確認しておきましょう。
ミケランジェロは、「全ての大理石の塊の中にはあらかじめ像が内包されている」と言いました。
同じく、全ての人には輝く何かが内包されています。
「自分には何も輝くものなどない」などと思うのであれば、それは発見する力が不足しているだけの話です。
目を凝らし、心を込めて全身全霊で見つめれば、必ずその人だけの「輝き」を発見するでしょう。
あとは、ミケランジェロや運慶のごとく、それを覆い隠す無駄な部分を削ぎ落としていくだけです。
そうすればきっと、その人は新しい命が吹き込まれたかのような生命力を醸し出すようになるでしょう。
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